この記事では限界まで追い込まない筋トレの効果について書いています。
- 追い込む?追い込まない?
- ドロップセットと通常の筋トレの効果の違いを調査
- 筋トレで追いこむVS追い込まない
- 潰れるまで行うかその手前で終えるか
- 持ち上げるスピードの低下と効果の違い
- 高強度VS低強度 限界VS一歩手前
- 各セット潰れるまで行わなくても効果は変わらない
- 追い込まない方が効果があったという研究 2019年版
- 根性論でなく理論的なトレーニングを
- 参考文献
追い込む?追い込まない?
フィットネスクラブのフリーウェイトゾーン(ダンベルとかバーベルが置いてあるエリア)を見ると、どこのクラブにも必ずと言って良いほど筋トレグループができています。
筋トレをしている様子を見ていると、自力で上げることができなくなっても、補助をしながら限界まで追いこむ姿がよく見られます。
中には大きな唸り声を上げながら追い込んでいる方もいらっしゃいます。
(ちなみに大きな声を出すのはマナー違反です。)
そんな姿を見ている一般の方からすれば、
「あんなに追い込まないと筋肉ってつかないのね…」
なんて思っている方もいらっしゃることでしょう。
実はそれ、間違いです。
補助を付けて唸り声を上げながら追い込まなくてもちゃんと効果はあります。
筋トレはむしろ追い込み過ぎない方が効果的と言えます。
もちろん楽々終わってしまっては効果はなく、ある程度頑張る必要はありますが、彼らが行なっているような追い込み方は、ただ苦しいだけで頑張っているわりには効果の薄い方法です。
そんな追い込まない筋トレの効果について見ていきましょう。
ドロップセットと通常の筋トレの効果の違いを調査
追いこむ方法としてよく行われているのがドロップセットと言われる方法で、限界まで行ったら少し重量を下げて限界まで行い、さらにまた重量を下げて限界まで…と繰り返す方法です。
- 100キロで限界まで行ったら60キロに重さを減らして限界まで。
- 60キロで限界になったら40キロに下げて限界まで。
- 40キロで限界になったら20キロに下げて限界まで。
こんなトレーニング方法です。
重りを段階的に落としていくからドロップセットです。
フリーウェイトゾーンで筋トレをしている人達定番の追い込み方です。
ドロップセットは限界まで追い込むので「やった感」「充実感」もあり、その分効果もありそうではありますが、実際はどうなのでしょうか。
ブラジル・サンカルロス連邦大学のAngleriらは普通の筋トレとドロップセットで追い込んだ場合とでの効果の違いについて調べています。*1
32人のボランティアを対象に、
- ドロップセットで筋肉の限界まで追いこむ
- 普通の筋トレ(75%1RMで6~12回を3~5セット)
以上の内容の筋トレを13週間行なってもらい、筋肉に対する効果の違いを調べました。
ドロップセットはやるだけ無駄
その結果、どちらも同じように筋肉が発達したとのこと。
筋肉の太さは
- 普通に行ったグループは7.6%肥大
- ドロップセットを行ったグループは7.8%肥大
というように筋肥大に関する効果に違いは見られませんでした。
レッグプレスの重量も
- 普通に行ったグループは25.9%向上
- ドロップセットを行ったグループは24.9%向上
といった感じで筋力の伸びも全く差は見られませんでした。
ドロップセットって筋肉の限界まで追いこむことになるので、かなり辛いトレーニング方法です。
ヘトヘトになり、筋肉もパンパンに張ります。
それだけ追い込んでも普通の筋トレ方法と効果は変わらないってことで、
ドロップセットはやるだけ損!
ってことになります。
効果が変わらないだけなら辛い分だけ「損」と言えそうですが、むしろ追い込んだ際の血圧上昇など健康に対する影響や、フォームの乱れによる怪我のリスクを考えると損というより「悪」と言っても過言ではないかもしれません。
ということで、筋トレ時にドロップセットで追い込む必要は全くありません。
筋トレで追いこむVS追い込まない
ドロップセットは無駄ということが分かりましたが、普通の筋トレで限界まで追い込んだ場合と一歩手前で終えた場合はどうなのでしょうか。
そこで、スペインナバラ州Research and Sport Medicine CenterのIzquierdoらの研究グループは筋力トレーニングで限界まで追い込んだ場合と追い込まなかった場合での効果の違いについて調べています。*2
実験では、バスケットボールの選手42人を
- 筋トレで追いこむグループ
- 筋トレで追い込まないグループ
に分けてトレーニングの効果を調べました。
追い込むというのはドロップセットなどを行うという意味ではなく、 「failure」「自力で持ち上げられなくなるまで」という意味です。
ポジティブフェイラーって言ったりします。
筋トレで潰れてしまうまで行うってことですね。
対する追い込まないグループは当然潰れるまで行うのではありません。
限界・潰れてしまう手前で止めるといった感じです。
筋トレで追いこむグループは
- 10回3セットを限界まで
筋トレで追い込まないグループは
- 同じ強度で5回6セット
という内容でトレーニングを行っています。
追い込まないグループは8~10回程度できるのに5回で終えているので精神的にも肉体的にもかなり余裕のある状態で終えるという感じです。
そのかわり、筋トレ自体のボリュームを揃える(合計30回持ち上げる)ためにセット数を多めに行うという感じです。
トレーニングの量は同じに揃え、追い込んだ場合とそうでない場合を比べたわけです。
追い込まない方がホルモンの量に好影響
トレーニングの結果、
- 体重や体脂肪率に差はなし
- 筋力、パワーの向上に差はなし
- 上半身の筋持久力は追いこむ方が向上
- 下半身の筋持久力の向上に差はなし
- ジャンプ力の向上に差はなし
- テストステロン値は追い込まない方が高い
- コルチゾル値は追い込まない方が低い
という結果になりました。
簡単にまとめると、
筋トレの効果は追い込んでも追い込まなくてもほぼ変わらない。
ただ、ホルモンに関しては追い込まない方が良い。
ということです。
追い込むというのは身体にストレスを与えることになります。
強いストレスがかかるとホルモンの分泌にも影響が出てきます。
ストレスホルモンであるコルチゾルが多いと筋肉は分解されやすくなってしまいますし、テストステロンが少ないと筋肉が発達しにくくなってしまいます。
この実験では自力で持ち上げることができなくなるまで追い込んだ場合でもホルモンに影響をあったということで、ドロップセットなどで本当に限界まで追い込んだ場合のホルモンの影響は非常に大きいものだと想像できます。
無駄に追い込むのは筋トレの効果がないだけではなく、ホルモンにも悪影響を及ぼすということですね。
ホルモン分泌のことを考えると、筋トレは限界まで追い込まない方が良いと言えそうです。
潰れるまで行うかその手前で終えるか
オーストラリアシドニー大学のDaviesらの研究グループは、筋トレで潰れるまで行なった場合と潰れる手前まで行なった場合とでの筋力増加効果の違いを過去の研究をまとめて解析を行っています。*3
潰れるというのはさっき紹介した実験と同じように、自力で持ち上げることができなくなるまでってことです。
ポジティブフェイラーです。
研究は過去に行われた信憑性の高い8つの研究を基に解析を実施。
追い込まない方が筋トレの効果が高い
調査の結果、追い込んだ場合よりも追い込まない方が0.6~1.3%筋力増加の効果が高かったとのこと。
一応統計的には有意差があるものの、大した差ではないのでどちらでも良いよっていうのが研究者の話。
逆に言えば、効果に大して差がないのであれば、意味もなく無駄に潰れるまで行う必要はなさそうです。
潰れるというのは限界まで追い込んでいることになるので、健康や怪我のリスクなんかを考えると追い込まない方が良いでしょう。
限界まで追い込んでもその手前で終えても効果に違いはないから無駄に追い込む必要はありません。
持ち上げるスピードの低下と効果の違い
ここまで紹介した研究を参考にするのであれば、筋トレで追い込み過ぎないほうが良さそうですね。
限界から1~2回程度の余裕を持って終えれば良いでしょう。
10回がギリギリなのであれば8~9回で終えればOKです。
ただ、トレーニングに慣れていないとあと1~2回できるかどうかの感覚がわからないこともあるでしょう。
もう1回できると思ったら潰れてしまったというのはよくある話です。
そんな場合はオモリを持ち上げるスピードを目安にしても良さそうです。
スペイン・パブロオラビデ大学のPareja-Blancoらの研究グループは、筋トレ時のテンポスピードの低下と効果の違いについて調べています。*4
追い込まないトレーニングを行うのであれば、どの程度追い込まないようにすれば良いのか反復速度の低下を目安にしましょうってことですね。
実験は22人の若い男性にスクワットを行ってもらっています。
限界まで追い込むのではなく、
- 持ち上げるスピードが20%低下したら止める
- 持ち上げるスピードが40%低下したら止める
以上の2つのグループにわけて8週間スクワットを行いました。
疲れてきたら持ち上げるスピードが遅くなりますよね。
遅くなってきたらそれで終わりましょうって感じです。
早めに終えればパワー、そこそこ遅くなれば筋肉
その結果
- 持ち上げる速度が20%低下で止めたグループはパワーがよく伸びた
- 持ち上げる速度が40%低下で止めたグループは筋肉が発達した
という結果が見られました。
パワーを伸ばしたいならスピードが維持できる回数まで、筋肉を付けたいなら持ち上げるスピードがある程度遅くなるまでって感じです。
持ち上げるスピードが遅くなるということは筋肉が疲労しているということです。
一般人が筋トレを行うのであれば、スピードが40%低下したあたりまで行えば十分と言えそうです。
この実験では機械を使ってスピードの低下を調べていますが、普段のトレーニングではそういうわけにはいきません。
どうしても感覚的なものにはなりますが、苦しくなってきて持ち上げるスピードが明らかに遅くなったと感じたところで終えるようにすれば良いのではないでしょうか。
10回が限界の重さであれば、自然と7~8回あたりで終えることになるかと思います。
逆に最初と変わらないスピードでできるようであれば筋肉の疲労はそれほどでもないので、もう少しがんばりましょう。
オモリを持ち上げるスピードが遅くなったら止めるようにうしましょう。
高強度VS低強度 限界VS一歩手前
筋トレは限界まで追い込まなくても効果はあるようですが、重たい負荷を扱う高強度の筋トレでないと効果はないのでしょうか?
軽めの負荷を扱う低強度の筋トレの場合でも効果はあるのでしょうか?
そんな疑問に対して実験が行われました。*5
筋トレ経験のない男性32人を
- 80%1RMの負荷で限界まで行う
- 80%1RMの負荷で限界の一歩手前で止める
- 30%1RMの負荷で限界まで行う
- 30%1RMの負荷で限界の一歩手前で止める
以上のパターンに分け、3セットの筋トレを週2回ペースで12週間行ってもらいました。
高強度でも低強度でも効果に違いはなし
実験の結果、
どのグループも筋肥大・筋力の向上効果に違いはなかった
という結果となりました。
やはり限界まで追い込む必要はなく、限界一歩手前で終えても筋トレの効果に違いはないようです。
これって結構重要なことで、限界まで追い込むとやはり安全面に関するリスクが高くなってしまいます。
その一歩手前で終えても効果が変わらないならその方が安全で良いと言えます。
また、筋トレは軽めの負荷で回数を多めに行うのが好きな方もいらっしゃるでしょう。
そんな方も限界の一歩手前まで行えば同じように効果が出るようなので、無理に高強度のトレーニングを行う必要はなさそうです。
筋トレは高強度でも低強度どちらで行っても良く、限界一歩手前で終えるようにすると良いでしょう。
各セット潰れるまで行わなくても効果は変わらない
ブラジル・ゴイアス連邦大学などの研究者らは筋トレを各セット潰れるまで追い込んだ場合とその手前で止めた場合とでのトレーニング量や疲労感などについて研究を行っています。*6
実験は平均年齢24.93歳の女性12人を対象に行われました。
参加者にスクワットを10RMの負荷で4セット、セット間のインターバルは2分という条件で行ってもらいました。
その際に
- 限界まで追い込む
- 限界まで追い込まない(スピードが20%遅くなったらそこで止める)
以上の2つの条件で筋トレを行いました。
実験の結果、疲労感は明らかに限界まで追い込まない方が低くなりました。
特に最後の4セット目には大きな差がついたようです。
これは当然ですよね。
追い込まないほうが疲労感が少なくて当たり前です。
ところが、合計の反復回数は限界まで追い込んだ場合も限界まで追い込まなかった場合もほとんど変わらないという結果となりました。
1セット目から限界まで追い込めば当然2セット目以降は回数が少なくなります。
逆に限界の一歩手前で終えた場合はセット目以降の回数の減少は少なくて済みます。
その結果、4セット行った場合の合計反復回数はほとんど変わらないという結果になるようです。
各セット限界まで追い込むよりも一歩手前で終えた方が疲労感は少なくトレーニングの量は変わりません。
限界まで追い込むのは苦しいぶんだけ損だと言えるのではないでしょうか。
追い込まない方が効果があったという研究 2019年版
研究の世界は日進月歩でして、半年前に発表された内容が否定されるなんていうのも良くある話です。
もしかしたら追い込まない方が良いと言ってたけどやっぱり追い込んだ方が良いって結果が出ているかもしれません。
ということで、比較的新しい研究も紹介してみましょう。
2019年に行われた研究では、筋トレ歴平均7.7年の15人の参加者を対象に
- 追い込まない
- 限界まで追い込む
以上の2つのグループに分けて実験が行われました。*7
週に3回のペースで10週間トレーニングを行い、効果の違いについて調べています。
10週間後の結果はと言うと、遅筋線維・速筋線維どちらも追い込まない方が発達していました。
最近の研究でも追い込まない方が筋肉の発達に効果的だったという結果ですね。
根性論でなく理論的なトレーニングを
根性論で「とにかく追い込め!」みたいなトレーニングではなく、理論に基づいた効率の良いトレーニングを行いましょう。
とはいえ、理屈ばかりで楽々終えては効果はありません。
それなりには頑張らないとトレーニング効果は現れません。
限界の1~2回手前であったり、スピードが遅くなってくるまでは頑張る必要があります。
あくまで無駄に追い込む必要は全くないですよーって話です。
ただ、やっぱり無駄に苦しいトレーニングを行っていると、どうしても精神的に疲れてしまったり、怪我のリスクが高まってしまったりします。
追い込むとフォームが崩れたりして肩や腰を痛めやすいんです。
特に筋トレを始めて間もない方や高齢者が筋トレを限界まで追いこむのはリスクが高くなります。
そんな方は限界まで追い込まないトレーニングで安全にかつ効果の出るトレーニングが行えるのではないでしょうか。
追い込まないぶん精神的な負担も少なくて済むので、トレーニングも長く継続できるかと思います。
継続すれば自ずと効果も出てくるでしょう。
ぜひ今日から追い込まないトレーニングを行ってみてはいかがでしょうか。
参考文献
*1:Crescent pyramid and drop-set systems do not promote greater strength gains, muscle hypertrophy, and changes on muscle architecture compared with t... - PubMed - NCBI
*2:Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains. - PubMed - NCBI
*3:Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis. - PubMed - NCBI
*4:Effects of velocity loss during resistance training on athletic performance, strength gains and muscle adaptations. - PubMed - NCBI
*5:Effect of Resistance Training to Muscle Failure vs. Volitional Interruption at High- and Low-Intensities on Muscle Mass and Strength. - PubMed - NCBI
*6:Resistance Training Performed to Failure or Not to Failure R... : The Journal of Strength & Conditioning Research
*7:Skeletal Muscle Fiber Adaptations Following Resistance Training Using Repetition Maximums or Relative Intensity. - PubMed - NCBI