キングオブエクササイズと言われるスクワット。
筋トレの代表とも言える種目ではないでしょうか。
一概にスクワットと言ってもしゃがむ深さによって呼び方に違いがあり
- クォータースクワット:膝の角度が45°くらい
- ハーフスクワット:膝の角度が90°
- パラレルスクワット:太ももが床と平行
- フルスクワット:太ももが床と平行よりも下に位置
- フルボトムスクワット:太もも裏とふくらはぎがくっつく
といった感じに分かれます。
当然しゃがむ深さによって効果に違いが生まれます。
そこで今回は、スクワットを行う上での最適なしゃがむ深さについて筋肉と怪我のリスクの観点という2点から見ていきたいと思います。
スクワットのしゃがむ深さにお悩みの方の参考になれば幸いです。
スクワットの深さと筋活動の違いについて
まずはスクワットのしゃがむ深さと筋肉の働きの違いについて見ていきましょう。
カナダ・オタワ大学の研究者らがフルスクワット時の筋活動について研究を行っています。*1
フルスクワットを行った際の筋活動をグラフにしたのがこれ↓
横軸の「0」がスタートで「100」がフィニッシュ、「53」がしゃがみきったところとなります。
また、
- 青色の線で囲っているのが太もも前の筋肉
- オレンジ色の線で囲っているのがお尻の筋肉
- 赤色の線で囲っているのが太もも裏の筋肉
となります。
囲っていないのはふくらはぎの筋肉とすねの筋肉なんですが、ふくらはぎやすねを鍛えるためにスクワットは行わないでしょうから割愛。
全体的に「53」の位置よりも右側が高いと思います。
「53」より左側はしゃがんでいく動作、「53」よりも右側は立ち上がる時の動作となります。
感覚的にもスクワットは立ち上がるときの方がキツイと感じるかと思いますが、やっぱり筋肉が頑張って働いているってわけですね。
では、青色の線で囲った太もも前の筋肉から見てみましょう。
だいたい横軸の60~70のあたりが高くなっていますね。
しゃがみきった横軸の「53」付近は意外と高くありません。
フルスクワットよりもハーフスクワット~パラレルスクワットの膝角度の方が太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)の活動は高まるようです。
太ももの前の筋肉を鍛えるためにはハーフスクワット~パラレルスクワットまでしゃがめば十分と言えそうです。
続いてオレンジ色の線で囲ったお尻の筋肉(大殿筋)について見てみましょう。
お尻の筋肉に関しては横軸の「60」あたりから高くなり、「90」くらいまで維持されるようです。
しゃがみきった「53」付近はそれほどお尻の筋肉は働いていないようです。
パラレルスクワットの位置よりも上の位置でお尻の筋肉はしっかりと働くようなので、お尻の筋肉を鍛えるならパラレルスクワットよりも浅くて十分と言えそうです。
最後に赤い色の線で囲ったももの裏の筋肉(ハムストリングス)について見ていきましょう。
太ももの裏の筋肉に関しても他の筋肉と同様でしゃがみきった「53」付近はそれほど強く働いていません。
もう少し立ち上がった「60」〜「90」あたりでよく働いています。
よって、太ももの裏の筋肉を鍛えるならクォータースクワット〜パラレルスクワットまでしゃがめば十分と言えそうです。
スクワット中の筋活動に関してまとめると
- フルスクワットのボトム付近はどの筋肉もそれほど働いていない
- 太もも前の筋肉はハーフ〜パラレルスクワットで鍛えられる
- お尻と太もも裏の筋肉はクォーター〜パラレルスクワットで鍛えられる
といった感じです。
ハーフスクワットよりも浅いと太ももの前が十分に鍛えられないので、太もも前後とお尻をバランス良く鍛えるならハーフ〜パラレルまでしゃがめば効果的と言えそうです。
もちろんパワーリフティング競技なんかは別です。
パワーリフティングのスクワットの場合はルール上フルスクワットの位置までしゃがまなければならないのでフルスクワットを行う必要はあります。
ただ、
- そこまでしゃがむことを求められない競技
- 見た目を良くするために
- 健康のために
なんかの目的で筋力トレーニングをしているのであれば、フルスクワットは必要ないと言えるかもしれません。
膝の角度が90°〜太ももが床と平行になるハーフスクワットからパラレルスクワットを行うようにすればいいでしょう。
スクワットの深さと怪我のリスクについて
筋活動を基にするとハーフ〜パラレルスクワットまでしゃがめば筋肉はしっかりと鍛えられるという結果でした。
続いてはスクワットのしゃがむ深さと怪我のリスクに関して見ていきましょう。
といっても正しいフォームでスクワットを行っていれば怪我をすることはほとんどありません。
間違ったフォームやトレーニング内容に明らかな問題があったりすると怪我に繋がる可能性があります。
ただ、正しいフォームで行っていても膝に関してはどうしても負担は掛かってしまいます。
米国デューク大学の研究者がスクワット中の膝に対してかかる負荷について調べています。*2
それによると、
- お皿と太ももの骨の圧迫力、すねの骨と太ももの骨の圧迫力、すねの骨と太ももの骨の剪断力(滑る負荷)全てにおいて深くしゃがむほど負荷が大きくなった。
- ただ、前十字靭帯や後十字靭帯への負荷は大きくはない。
- 膝のリハビリなら50°より浅いスクワットが適切
- 健康な人ならパラレススクワットが良い
とのこと。
The Journal of Strength & Conditioning Researchに掲載されたスクワットに関して書かれた記事も見てみましょう。*3
それによるとスクワットによる膝の怪我に関しては
- 膝にかかる圧迫力は深くしゃがむほど大きくなる
- 膝が130°までまがるフルスクワットまでしゃがむとかなり大きな圧迫力が掛かる
- 圧迫力が強いと骨軟化症、変形性関節症などの障害に繋がる可能性がある
- ただどれくらいの圧迫力がかかると障害に繋がるかはわからない
- 膝に問題のある人はフルスクワットは避けるべき
とのこと。
続いて変形性膝関節症と職業の関係について調べた研究を見てみましょう。*4
この研究によれば、変形性膝関節症の職業上の危険因子として
- ハードに身体を動かす労働者
- 重い物を持つ肉体労働者
- 深くしゃがんで作業を行う労働者
- 女性のみ硬い床で立つことの多い労働者
などの労働者は変形性膝関節症のリスクが高かったとのこと。
建設業・消防・農業・漁業・林業・鉱業の仕事は変形性膝関節症のリスクが高いようです。
中国人を対象に姿勢と変形性膝関節症について調べた研究も見てみましょう。*5
しゃがむ姿勢をとる時間と変形性膝関節症のリスクを調べたところ、しゃがむ時間が長いほど変形性膝関節症のリスクが高くなったとのこと。
中国では男性の40%と女性の68%は1日1時間以上しゃがんだ姿勢をとっているということで。
日常的に行われる深くしゃがむ姿勢っていうのはトイレで用を足す時の姿勢です。
中国は洋式便器は少なく、和式っぽいトイレが多いわけです。
俗に言うニーハオトイレが多いわけですが、用を足す時にはフルスクワットと同じような姿勢をとることになります。
深くしゃがんだ姿勢をとるトイレの回数や時間が長いほど変形性膝関節症のリスクが高くなったということですね。
スクワットのしゃがむ深さと膝の怪我についてまとめると
- 深くしゃがむほど膝の負担(圧迫力)は増える
- 時間が長い(期間が長い)ほど変形性膝関節症のリスクは増える
といった感じになるでしょう。
膝に問題を抱えているのであれば深くしゃがむスクワットはNGとなります。
健康な人の場合は深くしゃがむスクワットを継続的に長期間行うと膝に問題が出てくる可能性も考えられます。
とは言え深くしゃがむフルスクワットを行っても問題ないという意見もあるため、現時点ではスクワットのしゃがむ深さと怪我に関してはよくわからないといったところ。
ただフルスクワットが膝に良いという研究は見られなかったので、ゼロかマイナスであってプラスになることはなさそうです。
膝のためにはフルスクワットを控えた方が無難といった感じでしょう。
スクワットのしゃがむ深さに関するまとめ
スクワットのしゃがむ深さに関してまとめてみましょう。
筋肉のことを考えればハーフスクワットよりは深くしゃがみ、パラレルスクワットよりも下げる必要はないといった感じ。
膝の健康のことを考えると、深くしゃがむフルスクワットは長期的に見ると変形性膝関節症などの問題に繋がる可能性があるのでフルスクワットは控えておくと無難。
ということで、パワーリフティングなど深くしゃがまなければならない場合は別にして、見た目や健康のために脚の筋肉を鍛えるって目的でスクワットをするのであれば、パラレルスクワットが最適と言えるのではないでしょうか。
もちろんパラレルスクワットまで下ろすとフォームが崩れてしまう方や膝を痛めている方はもう少し浅いスクワットを行うと良いでしょう。
また、ランジやスプリットスクワットといった片脚ずつ行う種目は両足で行うスクワットに比べて関節に対する負担が少なくなります。
通常のスクワットだけやり込むのでなくランジなどの片脚ずつ行う種目に分散すればより膝の問題を防ぐことができるでしょう。
とりあえず、ベーシックはスクワットを行うのであれば、太ももが床と平行になるパラレルスクワットを行うようにしてみてはいかがでしょうか。
参考文献
*1:Lower_Extremity_Muscle_Functions_During_Full_Squats
*2:Knee biomechanics of the dynamic squat exercise. - PubMed - NCBI
*3:Squatting kinematics and kinetics and their application to exercise performance. - PubMed - NCBI
*4:Occupational and genetic risk factors for osteoarthritis: A review
*5:Association of squatting with increased prevalence of radiographic tibiofemoral knee osteoarthritis: the Beijing Osteoarthritis Study. - PubMed - NCBI